下垂体は脳の腹側中央からぶら下がっている脳の一部です。そのためこの名称がついています。下垂体はホルモン産生臓器の上位器官であり②甲状腺⑤副腎でのホルモンの産生と分泌を調整しています。具体的に言えば下垂体ホルモンである甲状腺刺激ホルモンは甲状腺での甲状腺ホルモン分泌を刺激しますが甲状腺ホルモン分泌量が多くなるとその分泌を抑制します。副腎皮質刺激ホルモンは副腎での副腎皮質ホルモン分泌を刺激しますが副腎皮質ホルモン分泌量が多くなるとその分泌を抑制します。これは負のフィードバック機構とよばれています。つまり上位器官である下垂体ホルモンが甲状腺ホルモンと副腎皮質刺激ホルモンを分泌するよう命令していますが度を過ぎると下位器官である甲状腺と副腎皮質から刺激を止めるよう働きかけるのです。このように人間の体は非常に民主的にできておりこれにより重要なホルモンは適切な量に調整されています。特に甲状腺ホルモンと副腎皮質ホルモンは生命維持に必要なホルモンであるためこのようなシステムが確立しているものと考えられます。その他の下垂体ホルモンは以下のように分類されます。
成長ホルモン 名前の通り体を成長させ身長を伸ばすホルモンですので思春期には重要ですが二次性徴がおこり骨端が閉じた状態では身長の伸びは期待できませんので重要性は低下します。むしろ下垂体腫瘍が発症し成長ホルモン分泌が亢進すると身体各部分の容積の増大がおこります。(先端巨大症)しかし最も問題となるのは悪性腫瘍が発生したときその進行が早くなることです。更に下垂体腫瘍が増大すると視力障害、頭痛等がおこり手術も困難となるのできるだけ早期の発見が必要です。手の容積増大や顔貌変化で見つけられる事が多いですが確定位診断が75gOGTT試験です。これは75gブドウ糖いり水を飲んでいただいて2時間後の成長ホルモンを測定する検査です。成長ホルモンは血糖を上昇させるホルモンなので通常ブドウ糖を内服すると成長ホルモンは低下します。低下しない場合は成長ホルモン分泌に自律性を持っているということなので先端巨大症の確定診断となります。治療は経蝶形骨洞下垂体腫瘍摘出術となりますが腫瘍が残存した場合は薬物療法の併用となります。
乳汁分泌ホルモン(プロラクチン) 乳汁分泌ホルモンは産後乳汁分泌を促進させるホルモンです。通常適切に分泌されていれば問題になることはありませんが腫瘍化し自律性を持つようになると(プロラクチノーマ)過剰分泌となります。プロラクチンは他の下垂体ホルモンである性腺刺激ホルモンを低下させるため男性では性欲低下 女性ではこれに加えて月経障害がおこります。男女比は1:8で圧倒的に女性が多いですが女性の場合月経障害で早期発見が可能なためマイクロアデノーマ(腫瘍径1cm以下)が多く逆に男性は発見が遅いためマクロアデノーマ(腫瘍径1cm以上)が多いです。治療は薬物療法ですが抗がん剤等ではなく副作用も殆どありません。内服を続行することによりプロラクチン産生腫瘍(プロラクチノーマ)は完全に消失します。
抗利尿ホルモン 名前の通り排尿を抑制するホルモンです。このホルモンが欠乏すると多尿となり一日10Lに及ぶこともあります(尿崩症)。そのため大量の飲水が必要となりますができないと容易に脱水となり高ナトリウム血症となります。問診と血液浸透圧、尿浸透圧測定で容易に診断することができ、治療も抗利尿ホルモンを点鼻無いし内服することでコントロール可能です。逆にこのホルモンが過剰に分泌されると適切な量を排尿できないため血液が希釈気味となり特に血液中のナトリウム濃度が低下します。(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群=SIADH)ナトリウム濃度が著しく低下すれば全身倦怠感等を引き起こし更に低下すれば意識障害を引き起こします。高齢者に多く春から夏への移行期に多いですが薬物の副作用としてあらわれることもあります。適切な治療で改善いたします。
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH=adrenocorticotropic hormone) 両側副腎皮質に対してコルチゾール(副腎皮質ステロイドホルモン)の分泌を促すホルモンです。日内変動があり朝に多く分泌されますが夜には著減しますのでコルチゾールも朝の分泌は多いですが夜には著減します。コルチゾールは抗ストレスホルモンで元気をだすホルモンであり免疫抑制ホルモンであるため朝と比較して夜は元気がなくなり眠りやすくなりますが免疫抑制が解除されるため喘息等は起こりやすくなります。下垂体腫瘍が発生し副腎皮質刺激ホルモンを分泌するようになるとこの日内変動が消失します。この日内変動の消失は副腎皮質刺激ホルモンの自律性分泌を診断する手助けとなります(クッシング病)。ホルモンの自律性に加えて過剰分泌が加わるとコルチゾール(副腎皮質ステロイドホルモン)の過剰分泌症状が出現してきます。必発は高血圧と骨塩の低下です。その他有名なものとして満月様顔貌(ムーンフェイス)、肥満があげられます。副腎皮質ステロイドホルモンはタンパク質を分解して糖や脂肪に変換する働きがあるため皮膚をはじめとする組織が菲薄化し脆弱となるため赤ら顔となり軽微な打撲で容易に出血するようになります。また体重が増加するのに反し骨塩は低下するため易骨折性となります。治療は下垂体手術しか無く薬物療法は無効です。逆に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌が低下ないし消失する疾患も存在します。ACTH単独欠損症と呼ばれる疾患です。非常にまれな疾患ですがACTH分泌が低下ないし消失するとコルチゾール(副腎皮質ステロイドホルモン)が低下ないし消失します。コルチゾール(副腎皮質ステロイドホルモン)は生命に必須なホルモンであるためこれがないと命の危機に晒されます。具体的には低血糖、低血圧、意識障害等が出現します。速やかに副腎皮質ステロイドホルモンが補充されれば救命は可能でその後は内服で治療可能です。